計算機ネットワークの歴史と現状
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掲示板 : 議論のための場所 (閑散 ^-^;)
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1.計算機ネットワークのはじまりコンピュータが企業や研究機関に普及した 1960 年代の後半、コンピュータは、空調され、清浄に保たれ た特別な部屋に置かれ、専門のオペレータによって扱われていた。一般のユーザがコンピュータを利用する 場合は、ジョブ依頼票とパンチカードをオペレータに渡し、数時間後、あるいは翌日に、計算結果がプリン トされた分厚い紙の束を受取るのが普通だった。
2.ARPANET:インターネットの祖
3.BBS:電子掲示板
4.Usenet とネットニュース
5.インターネットの成立と発展
6.ハイパーテキストとウエブ
7.インターネットブームの到来
8.ネットワーク文書の社会的取り扱い
参考文献1970 年代に入ると TSS (Time Sharing System) が普及し、複数の利用者が離れた場所に置かれた端末から、 リアルタイムで大型計算機を操作するようになった。計算機の利用者は、組織内の様々な場所に設置された 端末機のキーボードから、プログラム、データを打ち込み、コマンドを打ち込むことで計算機を自ら操作す る。このようなシステムには、メッセージ伝達システムが組み込まれており、主に、オペレータから利用者 に計算機の停止予定などのメッセージを広報したり、利用者がオペレータに磁気テープの交換などの作業を 依頼したりするために利用された。TSS のメッセージ交換システムは、機械的・事務的伝達が主体であった が、計算機を介した生身の人間同士のコミュニケーションシステムとしては早い時期に使われたシステムで あった。
幅広い人々のコミュニケーションを可能とする情報ネットワーク形成の試みも、時を同じくして始まってい る。これらの試みの中で、ARPANET と Usenet という二つのネットワーク及びさまざまな BBS (電子掲示 板システム) の誕生と発展は、今日の計算機ネットワークに大きな影響を及ぼしている。以下、これらにつ いて詳しくみることにしよう。
ARPA (Advance Research Project Agency) は 1958 年に米国政府が設立した機関であり、当初は旧ソヴィ エト連邦による最初の人工衛星スプートニクの成功に対する危機感から、宇宙開発に関連する研究のために 資金を提供することを目的としたが、時を同じくして設立された NASA が宇宙開発の中心的役割を果すよ うになると、ARPA は基礎研究に重点的に資金を提供する方向に向かい、コンピュータネットワークを一つ の主要テーマとして取り上げた。
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8.ネットワーク文書の社会的取り扱い
参考文献インターネットの基本思想は、ランドコーポレーションの Paul Baran が、核攻撃を受けた後でも機能し続 けるコミュニケーションシステムとして開発した分散型コンピュータネットワークであり、軍に対する売り 込みは失敗したものの、ARPA がこれを引き継いで ARPANET として実用化した。
ARPA はこの分散型コンピュータネットワークのシステム開発を Bolt, Beranek and Newman 社に発注し、 1969 年 9 月より大学、政府機関および軍の研究機関に設置された 50 台のコンピュータを接続して ARPANET の運用を開始した[1]。
ARPANET に当初から備わっていた機能には、他の場所の計算機資源を利用するためのリモートログイン、 他の計算機と相互にファイルを転送する FTP (File Transfer Protocol) および電子メイルなどがあった。電子 メイルは、特定の個人にメッセージを送るシステムであるが、予め登録されたメンバー全員に同じメッセー ジを送ることもできる。このようなメイルの利用方法をメイルリストと呼び、電子的な掲示板、あるいは会 議室として利用された。ARPANET は 1990 年に NSFNET 等にその役割を引き継ぐまで運用され、インタ ーネットの技術確立に大きな役割を果した。
ARPANET が成功裏に拡大を続けていた時期に、これとは独立に、BBS と呼ばれる電子掲示板システムが各 地に誕生し、独自の発展を遂げた。BBS (Bulletin Board System) とは、特定のコンピュータ内に設けた「掲 示板」と呼ばれるファイルに、電話回線を経由して多数のユーザがメッセージを書き込み、また、これを参 照するシステムである。ユーザは基本的にはアカウントとパスワードによってアクセスを制限され、あるい は課金されるが、個人の運営する「草の根 BBS」では、無料のものや、匿名ユーザのアクセスを許すものが 多かった。BBS システムのサービスは、掲示板のメッセージを読み書きする以外に、一般に、ユーザ間での メイル交換、システムの記憶装置内に蓄えられたファイルをユーザに転送する「ダウンロード」、逆にユーザ のファイルをシステムの記憶装置に送る「アップロード」などの機能を持つ。ARPANET が合衆国政府の資金 と組織的支援のもとに育まれたのに対し、BBS は多くの場合、民間の、あるいは個人の責任のもとに運営さ れた。
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参考文献BBS の原型は 1974 年に運用されていた「コミュニティ・メモリ」に見出すことができる[2]。このシステム はパブリックな場所に置かれた端末とメッセージを蓄積する記憶装置から構成され、誰でも自由にメッセージ を書き込んで記憶装置に追加し、誰でも自由に蓄積されたメッセージを読み出すことができた。人々はそこに 質問やそれに対する答えや、詩や、意味のないメッセージを書き込み、自由なコミュニケーションを満喫した。
1978 年、シカゴの Ward Christensen と Randy Suess は CBBS (Computer Bulletin Board System) と呼ばれ る電子掲示板システムを開発した。このソフトウエアは無料で配布され、全米に BBS が広がるきっかけとなっ た[3]。
1980 年代の中頃より、大手 BBS が相次いで開設され、会員数を競った。これらは一般に「パソコン通信」と 呼ばれるように、主な利用形態である電子掲示板 (BBS) の他に、会員間のメイル、チャット(オンライン会話)、 中央の計算機へのファイルのアップロードとこれからのダウンロードなどの総合的な通信サービスを提供した。
BBS は電話回線に接続されたコンピュータを用いて容易に開設することができるため、個人や小規模グループの 運営する草の根 BBS も各地に誕生した。米国の BBS の数は、1985 年にはおよそ4千、1990 にはおよそ3万 と見積られている[4]。また、電話回線の代りにアマチュア無線の電波を用いる RBBS (Radio Bulletin Board System) も各地に開局した[5]。
1976 年、AT&T ベル研究所の Mike Lesk は、電話回線を介して互いに離れた場所にあるコンピュータ間でファイ ルを交換したりメイルを送り合う「ダイヤルアップネットワーク」構築用のソフトウエア "UUCP (Unix to Unix CoPy)" を開発した。UUCP は、モデムを介してコンピュータ間で定期的に電話を掛け合い、要求されたファイル の転送を自動的に行なう[6]。
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参考文献Mike Lesk、David Nowits、Greg Chesson による UUCP Version 2 が 1977 年に配布されると、これを BBS に類 似した公開された議論の場に利用する試みがなされた。これが、最初のネットニュース、Usenet である。Usenet の定期投稿文書 "Usenet Software: History and Sources" (Mark Moraes 著) によると、Usenet の始まりは以下のよ うであった。
Usenet は UUCP をサポートした UNIX V7 リリース直後の 1977 年の終わりに誕生した。ノースカロライナの デューク大学のふたりの大学院生 Tom Truscott と Jim Ellis は、コンピュータ同士を接続して、UNIX コミュニテ ィーの情報交換に使うことを考えた。ノースカロライナ大の大学院生 Steve Bellovin がこれに加わり、シェルスク リプトで書かれたニュースソフトウエアの最初の版を、最初の二つのサイト "unc" と "duke" にインストールした。 1980 年の初め、ネットワークはこの二つのサイトとデューク大学のもう一つのマシン "phs" で構成されており、 これが 1 月の Usenix 会議で発表された。…… 1986 年の 3 月、NNTP (Network News Transfer Protocol) を用い てニュースを転送し、読み書きするパッケージがリリースされた。このプロトコルは、これまでのものが UUCP に よって記事を交換していたのに対し、TCP/IP を経由した交換を可能とした[7]。Usenet は、現在では主にインターネット経由でネットニュースの配送を行なっているが、当初は UUCP によって ネットニュースとメイルサービスを行なう情報ネットワークとして発展し、資金の必要な ARPANET に対し、「貧 者の ARPANET」とも呼ばれた。後に、ARPANET に参加していたカリフォルニア大学バークレイ校が Usenet と ARPANET の相互接続を行ない、それぞれのネットワーク間でのメイルの転送および Usenet のネットニュースと AEPANET のメイルリストとの相互交換が行なわれるようになった[8]。日本では、1984 年、村井純等によって東京大学、東京工業大学、慶応大学の三組織を結んだ UUCP ネットワーク "Junet" が構築され、接続実験としてではあるが、実用的な電子メイルとネットニュースのサービスを開始した。 Junet で用いられたニュースソフトウエアは Usenet のニュースソフトウエアをベースとしており、Junet と Usenet 間でのニュース記事の相互交換が行なわれた。Junet のニュースグループ (fj のニュースグループ) は Junet 解散 後も引き継がれ、今日に至るまで活発なコミュニケーションが行なわれている。
Usenet も Junet も、当初は UUCP を利用してメイルとニュースを伝送するネットワークとして構築された。今日 では、メイルもネットニュースも、その転送は大部分がインターネット経由で行なわれている。この過程で、電子 メイルの転送はインターネットに完全に置き換わっているが、ネットニュースとしての Usenet や fj は存続し、 発展を続けている。これは、ネットニュースというコミュニケーションの場は、伝送手段に依存するのではなく、 ニュースグループとそれを利用する人々によって成り立っているためと考えられる。コミュニケーションの階層 モデルによれば、ネットニュースというコミュニケーションの場は、伝送手段であるインターネットや UUCP の 上層に位置するといえよう。このあたりの事情は、村井純等の以下の記述が明確に物語っている。
Net News の配送は、電子メールと同様、必ずしもインターネットのような IP 接続を前提としておらず、UUCP や その外の転送プロトコルを使用することもできる。実際に Net News はさまざまなネットワークを通して配送され ているが、UUCP での接続によって構成されているネットワークも多くある。また、フロッピーディスクや磁気テ ープ、CD-ROM で記事を移動することも配送とみなされている[9]。Usenet という用語は、狭義には Usenet の正規トップドメイン以下のニュースグループをさすが、広義には同じ転 送メカニズムに従う他のネットニュースを含める。この論文においては、用語 Usenet は狭義に用いることとし、 他のニュースグループを含む場合は単純に「ネットニュース」と呼ぶことにする。ARPANET の運用を開始するに際して、ARPANET 参加サイトの代表者とネットワークの開発を担当した BBN 社の 担当者が集まり、後に NWG (Network Working Group) と呼ばれる組織を発足させた。この組織は、RFC (Request For Comments) と呼ばれる一連の非公式文書により、相互の接続技術を規定していった。
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8.ネットワーク文書の社会的取り扱い
参考文献ARPA (後に DARPA: Defense Advance Research Project Agency と改名) は、その後もコンピュータネットワークの 研究支援を続け、当初の NCP (Network Control Protocol) から、より汎用的な計算機相互のコミュニケーション手続 である TCP/IP の研究を推進した。インターネットプロトコル TCP/IP の標準化は、1979 年より DARPA の設立し た非公式委員会である ICCB (Internet Control and Configuration Board) で、1983 年からは ICCB から改組された IAB (Internet Activities Board) において行われ、1992 年からはインターネット全体を統括する ISOC (Internet SOCiety) に引き継がれた。
これらの過程を通して、RFC という規約文書の名前が引き継がれ、自由に文書が入手でき、誰でも批判や提言を述べ ることができる伝統が受け継がれた。このような開かれた姿勢を保ったことが、規格の普及を促進したと言われている。 個々の規定として、電子メイルは RFC822 (SMTP: Simple Mail Transfer Protocol) に、ネットニュースは RFC1036に、 NNTP (Net News Transfer Protocol) に関しては RFC977 に、詳細が定められている[11,12]。
1980 年代に入ると、(エンジニアリング)ワークステーション (EWS) と呼ばれる計算機が普及した。ワークステー ションはそれぞれの研究室で購入できる程度に安価であり、主に、科学技術計算や設計の支援、小規模な統計解析などに 用いられた。ワークステーションは、インターネットプロトコル (TCP/IP) をサポートし、イーサネットと呼ばれる、 同軸ケーブルを用いた高速データ回線により他のワークステーションと相互にデータを交換する機能を持っていた。これ を利用した組織内のコンピュータネットワークを LAN (Local Area Network) という。LAN を公衆電話回線を介して遠く 離れた事業所等と結んだものは WAN (Wide Area Network) と呼ばれ、各地に分散した事業所を持つ大規模な組織で利用 された。
1986 年、NSF (National Science Foundation) は、全米 5 ヵ所に設置したスーパーコンピュータを遠隔地から利用するた め、ARPANET で使われていたインターネットプロトコルを発展させた形で、独自のコンピュータネットワーク "NSFNET" を立ち上げた。ARPANET への参加が政府関係組織に限られていたのに対し、NSFNET はネットワークへの接続をあらゆ る学術組織に認めた結果、多くの大学や研究機関の LAN が NSFNET に接続された[13]。
NSFNET は、バックボーンと呼ばれ、全米をカバーする高速の通信回線を提供するが、インターネットの構成自体は中心 的な装置、組織を持たず、全ての接続組織のコンピュータが対等な立場で接続されている。NSF の提供するコンピュータ 資源は他の組織の持つコンピュータとフラットな関係で接続され、接続組織は NSF の資源を利用しなくても、他の経路 が確保されれば、相互に接続できる。NSFNET はその利用が学術目的に限定され、NSFNET を経由するインターネットの 利用には制限が加えられたが、利用目的を限定しない商用のネットワークもいくつか作られた。これら全てのネットワー クは相互に接続され、どのネットワークに接続されているコンピュータであっても相互にコミュニケーションが可能とな った。
インターネットという言葉自体は、当初は大学や企業などの個々の組織が持つ LAN の「間」を結ぶ大域的ネットワークを指 す普通名詞であったが、全てのネットワークが一つに結ばれたことによりインターネットは単一のネットワークとなり、 固有名詞として、大文字で始まる "Internet" に変化した("the Internet"、"the Net" 等とも呼ばれている)。
1990 年代に入ると、学術目的に限定されていた NSFNET に代るバックボーンの整備が進んだ。1991 年には米国商用バ ックボーンネット CIS が成立し、研究目的に限定されない、自由な通信ができるようになった[12]。これにより、イン ターネットの商業的利用が広く行なわれるようになっただけでなく、インターネット接続サービスを行なう企業「インタ ーネット・サービス・プロバイダ」が各地に誕生し、接続料金さえ支払えば、誰でもインターネットを自由に利用できる ようになった。また、大手 BBS もインターネットとの相互接続を開始し、電子メイルを相互にやり取りしたり、ネット ニュースを掲示板のように読み書きしたり、インターネット経由で BBS にアクセスしたりすることができるようになっ た。
我国では、WIDE による BBS との相互乗り入れ実験が行なわれ、商業通信の可能性が探られ、1992 年、Junet とパソコ ン通信各社との接続が行なわれた[14]。そして、1993 年 12 月 Junet 協会が解散し、営利組織である IIJ に業務が移さ れ、インターネットの商用化が始まった[10]。
インターネットが公開された学術ネットワークとして発展してきたのに対し、BBS はそれぞれが閉じた世界の中で追求さ れる個人的興味、あるいは営利事業として発展した。このような異文化の場が同じコミュニケーションの場に登場してき たことは、インターネットの内部で形成されていたコミュニケーションの場にも大きな影響を与えることとなった。
ウエブ (蜘蛛の巣の意。WWW: World WIde Web が正式な呼称であるが、本論文では「ウエブ」と呼ぶことにする) は、 ネットワーク上のハイパーテキストによるコミュニケーションシステムであり、文字情報だけでなく、画像や音声、映像 (動画像)の伝達を可能とするほか、ネットワーク上の他の情報へのリンクを含めて伝達することができる。ウエブは、 インターネット上の資源の場所と利用方法を示す URL (Univorm Resouce Locator) を定義した上で、これを文書中に埋め 込むことができる HTML (Hyper Text Markup Language) で文書を作成することにより、簡単な操作でインターネット上の 種々の資源へのアクセスを可能とする。
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参考文献ウエブはスイスのジェノバにおいて CERN(ヨーロッパ素粒子物理学研究所)の有志グループによって開発された。1993 年、 イリノイ大学に置かれた NCSA のマーク・アンドリーセンにより、ウエブを参照するためのソフトウエア "mosaic" が開発、 発表されると、ウエブは爆発的に普及した。この結果、インターネットのトラフィック(情報流通量)は急速に増大した。
ウエブは、ハイパーテキストを扱うことで、極めて自由度の高い表現を可能としている。ハイパーテキストは、伝統的な文 書が先頭から順に読まれることを想定しているのに対し、関連する様々な情報へ自由に飛び移りながら読まれるテキストであ る。関連付けられた情報は、文字情報以外に、図や画像、音声、動画、コンピュータプログラムなど、多種多様であり、テキ ストの製作者が提供する作品だけでなく、既存の他者の作品への参照も含めることができる。
活字で印刷された文書も、多くの場合、構造を持つ。目次からは、それぞれの章を直接参照することができるし、索引からは、 特定の用語を記載したページを引くことができる。更に、文章中には、図や、表、あるいは文書中の他の個所への参照や、引 用文献の参照などが含まれている。ハイパーテキストは、このような、文書の構造を扱う機能を拡張、自動化したものであり、 簡単な操作でリンクをたどることを可能とする。このような機能は、文書中に制御符号を埋め込むことにより実現されている。
ハイパーテキストの概念は、1945 年にヴァネヴァー・ブッシュが発表した「メメックス」に遡ることができるといわれている [15]。この装置は、関連する情報を辿る機能を備えた、モータ仕掛けの情報検索装置である。その後コンピュータが普及する と、これをハイパーテキストに利用する試みが広く行なわれた。ハイパーテキストは、より自由度の高い文書という新しい表 現形式として利用されただけでなく、計算機のオペレーティングシステムの一部として、システムの操作性やプログラムの可 読性の向上、ヘルプファイルの検索などにも、今日広く用いられている。
ハイパーテキストを読むためのソフトウエアは「ブラウザ」と呼ばれ、文書中の制御符号を解釈して、画像を表示したり、ユ ーザとの対話により他の文書や同じ文書中の他の個所に表示を切替えたりする動作を自動的に行なう。
ウエブを読むためのブラウザとして、その後、mosaic の開発者等が独立して開発した Netscape が mosaic に代って広く利 用されるようになった。今日では、ブラウザは計算機を操作するための有力な手段として重要視され、マイクロソフト社の Internet Explorer 等、他のブラウザも登場して、ブラウザ間の競争が激化している。
1993 年 9 月 15 日、米国ホワイトハウスは "The National Information Infrastructure: Agenda for Action" と題する文書を発表 した。これは、情報伝達手段を国家の重要な資源の一つと位置付け、急速な進化が進む情報技術を、教育、医療、文化、 学術、政治参加などに活用することによって、雇用の改善、福祉の向上を図ること、このための税制の見直し、情報公開の推進、 研究開発の支援などを行うと宣言したものである。
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8.ネットワーク文書の社会的取り扱い
参考文献この発表は、電波利用の割当て、知的所有権保護から、貿易政策までを含む総合的な政策ではあったが、情報ネットワークが、 単なる研究者の道具や物好きな個人の楽しみであった過去に決別し、港湾や道路、鉄道と同様の、産業を支える基盤の一つであ ると、国家が明確に認識したものとして注目される。
同じ時期に、我国でも、各課程に光ファイバーを敷設し、各種情報の伝達に利用しようという FTTH (Fiber To The Home) 計画と マルチメディアビジネスの夢が喧伝された。
1995 年、ネットワーク機能を強化した Windows 95 がマイクロソフト社から発売されると、これを搭載したパーソナルコンピ ュータの普及が急速に進んだ。Windows 95 を用いると、専門知識がない個人でもインターネットに容易に接続でき、インターネ ットプロバイダと契約してウエブにアクセスすることが流行りはじめた。また、企業内の情報ネットワークの整備も急速に進み、 インターネットの技術を閉鎖された環境で利用する「イントラネット」が各社で構築された。今日では、多くの大学、企業、官公 庁が、それぞれの組織内にコンピュータネットワークを持ち、これをインターネットに接続して、ホームページを公開したり、 ウエブをはじめとする様々な情報にアクセスし、また、相互に電子メイルを交わしている。
電気通信としての計算機ネットワーク
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7.インターネットブームの到来
参考文献計算機ネットワークは、電話と同様、電気通信の一形態としての法的規制を受ける。不特定多数の顧客にサービスを提供するイン ターネット・サービス・プロバイダは、電気通信事業法の規制を受け、検閲行為が禁止される。また、組織内部の計算機ネットワー クは、構内電話と同様に、有線電気通信事業法が適用されると考えられ、検閲を禁止する規定はないものの、管理者には守秘義務 が課せられる。
インターネットを経由するメイルなどの情報は、他のサイトの計算機に一旦蓄えられるため、中間のサイトが悪意あるものに操作 されている場合には、そこを経由する情報が傍受、改竄される可能性がある。このため、クレジットカード番号などの秘匿すべき 情報は、インターネットを経由して送受信すべきではないとされている。
メイル
電子メイルは、信書としての法的保護は受けていないが、道義的に信書と同様に扱われている。計算機の管理者は、担当する計算 機に格納された全てのメッセージにアクセスでき、メイルの内容もその例外ではないが、これによって得た情報を計算機の管理以 外の目的に利用することは不道徳であると考えられている。片思いの異性のメイルを覗いた計算機管理者が所属組織から処分され た例も報告されている[17]。
メイルを信書として保護する法律は今のところ存在しないが、メイルも著作物の一つとして作成と同時に著作権の保護を受ける。 著作物を公表する権利は、著作者人格権の一つである「公表権」として、作者に認められている。このため、メイルの正当な受取 り人であっても、送信者の許諾なくメイルの内容を公表することはできず、また、その一部を引用することもできない。
メイルリスト
メイルリストはメイルであり、普通のメイルとの違いは、複数の登録された受取り人がいる点だけである。したがって、メイルリ ストは、基本的にはメイルと同様の扱いを受ける。しかしながら、メイルリストの大規模なものは、数百人以上の読者を擁し、公 開された場に近い性質を持つとも考えられる。大規模なメイルリストは、投稿物の取り扱いに関する取り決め(例えば公開可など) が定められている場合が多く、このような規定が存在する場合はこれにしたがって扱うのが妥当である。
ネットニュース
ネットニュースの記事は、参加組織の所有する計算機システムに蓄えられ、参加組織の所有する計算機システム上で動作するニュ ースサーバソフトウエアによって、各参加者に記事が供される。これらの計算機システムの所有者は、管理者を任命して、その管 理を委ねる。それぞれの参加組織におけるネットニュースの運用は、特段の契約等がない限り、所有権とその権限の委譲により、 計算機システムの所有者とそれに任命された管理者に完全に委ねられる。
ネットニュースへの記事の投稿は、投稿者の責任のもとに行なわれ、参加組織や伝達経路にあたる組織、個人の責任は問われない とされている。しかしながら、個々のサイトのシステム管理者が管理責任を問われる可能性は否定できない。また、fj においては、 NGMP (ニュースグループ管理規約) の中で、ニュースグループ管理委員と参加組織の管理者を「fj の管理主体」と規定し、これに 記事を削除する権限を認めているため、これら管理主体の法的責任が問われる可能性を残している[18]。
ネットニュースに投稿された記事の著作権の扱いに関しては議論があったが、ネットニュース自体が記事の自由な転送の上に成り 立っていることから、記事を投稿するという行為自体が、その記事の転送を許諾するものと考えられている。また、投稿した記事 は公開されたものとみなされる。
ネットニュースに投稿された記事は、パブリックドメインにおかれる、すなわち、著作権が消失するという、極端な主張もあるが、 現在のところこの考え方は少数派であり、法律上の根拠もない。なお、ネットニュースの流通範囲で、ネットニュースのコミュニ ティの利益に合致する形で記事を利用する場合には、投稿者に無許諾無償で記事を利用できるとする考え方が主流である。
掲示板(BBS)
BBS に投稿された記事の扱いは、各 BBS の主催者が定める規定による。商業的 BBS の多くは、記事を該 BBS の外部に転載す ることを認めていない。
多くの BBS の規約は、メッセージ公開に伴う全ての責任は投稿者にあるとしているが、主催者および管理者(シスオペ等と呼ば れている)に記事を削除する権限を認めており、これらの管理者も不適切な記事の公開に対する責任があるとの判決も出ている [19, 20]。最近では、一般の利用者もウエブ上で容易に掲示板を開設できるようになっているが、その管理に手落ちがあると、 思わぬ責任を問われかねないので注意が必要である。少なくとも、自分の管理する掲示板に連絡先として掲げたメイルは定期的に チェックし、苦情が寄せられた場合は、適切な処理をとるよう心掛けなければならない。
ウエブ
ウエブもネットニュースや BBS と同様、メッセージの公開である。ウエブに置かれた文書に関る責任は、それを作製し、公開し た者が第一に負わなければならないが、その文書ファイルが置かれ、外部からのアクセスを可能としている計算機を所有するプロ バイダおよびその計算機の管理を任ぜられた者も、ページ削除の権限を持ち、責任を問われる可能性がある。
ウエブへのアクセスは、それぞれの文書に与えられた URL に対するリクエストを受けることにより、ウエブページの管理者自身 が送信を行なう(送信が行なわれるように設定している)。送信という行為は、送信者自らが行なうのであるが、これは単なる自 動装置の応答に過ぎず、リクエストの送信者がページの送信を引き起こしたものと解釈されよう。
自らのウエブページにリンクを張ることによる他人のウエブページの利用に関しては、形式的には、URL という事実を表示しただ けであるから、自由に行なって良いとの意見がある一方で、実質的には、他人のウエブページ、もしくはそこに使われている素 材の複製利用であるから、リンク先ページの所有者の許諾を得る必要があるとする意見もある。
現在の主流と思われる考え方は、他人のウエブページの個々の素材の利用に際しては、たとえリンクを張るだけであっても許諾が 必要であり、無許諾でリンクを張って良いのは、それぞれのウエブページの入口に相当する「ホームページ」だけであるとするも のである。但し、この考え方は、全ての人が受け入れているわけではない。「リンク禁止」等と表示されている場合は、たとえそ れがホームページであっても、そこへのリンクを公開ウエブページに含めないといった配慮は必要であろうし、リンクしたいペー ジの管理者のメイルアドレスが明記されている場合は問い合わせのメイルを送るなどの配慮が必要であろう。
[1] 浜野保樹、「極端に短いインターネットの歴史」晶文社 (1997)
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[2] Steven Levy, "HACKERS" (1984)、古橋芳恵、松田信子訳「ハッカーズ」工学社 (1987)
[3] デジタルコミュニケーションラボ編「BBS 開局ガイド」翔泳社 (1998)
[4] Bruce Sterling "The Hacker Crackdown: Law and Disorder on The Electronic Frontier"、今井清訳「ハッカーを追え」アスキー出版局 (1993)
[5] 秦正人、山内雪路編「パケット通信ハンドブック」CQ 出版社 (1987)
[6] Tim O'Reilly, Grace Todino, "Managing UUCP and Usenet" (1990)、Juice 訳「UUCP システム管理」アスキー出版局(1991)
[7] Mark Moraes, "Usenet Software: History and Sources" Usenet 定期投稿文書、訳は筆者
[8] Michael Hauben, Ronda Hauben, "Netuens: On the History and Impact of Usenet and the Internet" (1997)、井上博樹、小林統訳「ネティズン:インターネット、ユースネットの歴史と社会的インパクト」中央公論社(1997)
[9] 村井純、吉村伸編「インターネット参加の手引き」共立出版 (1994)
[11] 力武健次「インターネットコミュニティ:国際ネットワーク最前線」オーム社開発局(1994)
[12] C. Malamud, "STACS: Interoperability in Today's Computer Network" (1992)、後藤茂樹、村上健一郎、野島久雄訳「インターネット縦横無尽」共立出版(1994)
[13] Ed Krol, "The Whole Internet: User's Guide & Catalog" (1994)、村井純監訳「インターネットユーザーズガイド」オーム社(1994)
[14] 村井純「インターネット」岩波新書
[15] George P. Landow, "Hypertext: The Convergence of Contemporary Critical Theory and Technology" (1992)、若島正、板倉厳一郎、河田学訳「ハイパーテクスト:活字とコンピュータが出会うとき」ジャストシステム (1996)
[17] bit (年、号不明)
[18] Lance Rose, "Net Law: Your Rights in the Online World" (1995)、Fems 訳「ネットワークの罠:知らないうちに犯罪者!?」(1996)
[19] 判例時報 1610号 p22-44
[20] 朝日新聞記事 1997.5.27
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